黒い日傘をさした女

ウェストゲートパークのステージの上には前の演奏者らしきグループが手を振っていた。


当然ステージの前には若い女の子の人だかり。


由美子はステージには行かず脇にある鉄パイプの椅子に寄り掛かった。


当然白い日傘をさしている。


「暑いわ」


と白いバッグからもう一枚ピンクのハンカチを出して首を拭いた。


俺も鉄パイプに寄り掛かって


「ステージの前に行かないの?」


と汗をかきながら聞いた。



「うん、ここでいいの。いつも遠くから見てるから」


と由美子は暑そうに答えた。



「由美子さんが見に来る事知ってるの?」


「うん、DMで言ってある」



そうこうして隼人のバンドが出てきた。


俺はヴォーカルの顔をよく見てみた。


でもハッキリ見えない。



「俺ちょっと近くで見てきていい?」


と由美子に聞いた。


「どうぞ」


と日傘の下から由美子の一言を聞いた。



俺はするすると人だかりをぬうように歩いて一番前に出た。


ヴォーカルの男は今、バラードを歌っていた。



茶髪の長髪に涼やかな目元。


すっと伸びた鼻筋の下には情熱的な唇。



かなりのイケメンだ。


”隼人”は遠くを見ながら熱唱していた。


俺は隼人の表情をジッと見た。



これは恋する顔。



遠くを見つめる先には由美子の白い日傘があった。



(俺の気のせいか?)



俺は隼人に視線を戻してもう一度その視線の先を見た。


若い女の子がきゃあきゃあステージを見る中、俺の視線は由美子に移った。



(こいつは、隼人は由美子を見て歌ってる)



と確信した。


俺は人だかりを抜けて由美子の元へ戻った。



「かなりのイケメンだね」


と俺は日傘を傾けて顔の見えない由美子に言った。


「うん。モデルのバイトしてるんだって」


と自慢するような声が聞こえた。



俺は由美子の隣に立って


「隼人は由美子さんに歌ってるみたいだ」


と呟いた。


由美子は演奏に聞き入っているのか返事をしなかった。



約40分くらいの演奏だったが俺は汗びっしょりになった。


ステージでは隼人がファンからの差し入れのペットボトルをいっぱい受けっていた。



「もう無理。シャワー浴びたい」


と由美子が日傘を傾けて顔を見せた。


その頬には汗が流れていた。



「そうだね。確かにシャワー浴びてスッキリしたい」


と俺も言った。



「じゃあ、行きましょ」


と由美子が言った。



どこに? という顔で俺は由美子を見た。



「あそこに部屋取ってあるの」


と由美子はそびえ立つシティーホテルを指さした。



(あれは・・”黒い”由美子が入って行ったホテル)



俺の返事も聞かず由美子は歩き始めた。


自然と俺もその後ろを歩いた。



その時、「美蘭さん!!」と声が響いた。


少しハスキーな声。



振り返ると隼人が立っていた。



いや、走ってきたのだ。