それからあたしたちは自分の部屋に戻ったり、広間で会話をしたりして過ごしていた。


「明日花、部屋に戻るか?」


少し広間に残っていたあたしに健がそう聞いて来た。


まだあたしの体を心配してくれているみたいだ。


健に心配かけないためにも、今日は大人しくしておいた方がいいのかもしれない。


「そうだね、そうしようかな」


本当はもう少し話をしていたかったけれど、あたしはそう言って立ち上がった。


「じゃぁ、あたしも戻ろうかな」


麦茶を飲んでいた伶香がそう言い、席を立った。


髪の毛を耳にかけ、グラスをシンクへと持って行く。


あたしはその仕草に釘付けになっていた。


髪を耳にひっかけるその仕草に。


「なに? どうかしたの?」


あたしの視線に気が付いた伶香が手を止めて振り向いた。


「え……? あ、別に……」


そう言うが、うまく誤魔化す事ができなかった。


「明日花、どうした?」


健が聞く。


「ううん、なんでもないんだけど……」


どうして伶香のあんな仕草がひっかかったのか、自分でわからなかった。


どうしたと聞かれても、答えがなかったのだ。