ローテーブルの向こう側で貴一は貴一は動じることもなく、頬杖をついた姿勢で広げたノートに視線を落としたまま。手の中でシャーペンをくるくる回してもてあそんでいる。


いつものように冷房の効いた私の家のリビングは貴一と私の勉強部屋。扇風機の風に煽られた残り少ないお菓子の袋が、ローテーブルの端っこで懸命に踏ん張っている。うっすらと汗をかいたグラスを手に取ると、氷がことんとグラスの底に沈んだ。


「何か、他に用事でもあるの?」


貴一はさらりと返したけれど顔を上げようとはしない。


逆に聞き返されるとは想定外。とくに用事なんてないけれど素直に答えるのは私のプライドが許さなかっただけ。
そんなことぐらいわからないかなあ……、もしも本気で尋ねたのだとしたら貴一は幼馴染み失格だ。


『一緒に行きたい』と言うのなら、『行ってもいいよ』と答えよう。私が『行きたい』と答えなければいけないのが問題なんだ。


「今のところ用事はないけど……カラオケ行こうって言われてるから」


と嘘をついてしまった。
これが私のいけないところだとわかっているのに。