コンビニの袋を提げた貴一と並んで坂道を登っていく。袋の中には渚ちゃんの家で待つメンバーと同じ数のアイスクリーム。
俊也君と渚ちゃんは公園に残して、私たちは先に戻ることにした。


浴衣を着た若いカップルが坂道を下りてくる。すれ違いざまに振り返った女性は、浴衣を着た幼い女の子と手を引いている。おぼつかない足取りの女の子に女性は微笑みかけた。


「美咲も浴衣着たらよかったのに」


耳元で呟いた貴一の声は花火の音にかき消されていく。


貴一が足を止めて空を見上げた。


空には大輪の花火がいくつも重なって眩しいほど。体の芯を揺さぶる音に耳を傾けて追いかけるうちに、貴一の手が私の手を包み込んだ。
指を絡めて、強く握りしめて。


「誰にも渡さないから」


穏やかな貴一の声が、坂道を駆け抜ける風に乗って舞い上がる。


はらはらと夜空に舞い散る花火が星が滲んで消えていくというのに、私の体はいつまでも熱いまま。きっと絡んだ指に繋がった糸が冷めることなく熱を持っているからだろう。


私の胸には散ることのない花が咲いてる。




ー 完 ー