何度でもあなたをつかまえる

かほりの、雅人に対する愛情はホンモノだ。

だが、あまりにも、立場が……生まれや育ちが……家庭環境や、学校生活が違い過ぎて……かほりの無邪気な素直さが雅人を傷つけ、卑屈にさせる。

今回も、そうだ。

ベッドの中で、裸で待ってろよ。

さすがに身勝手過ぎる願望に、雅人は自嘲した。


「雅人?この辺、詳しい?ホテルのかたに、どこか、ゆっくり話せるお店、聞いてみる?」

かほりは、カードキーを抜きながら、雅人にそう聞いた。

……プチッと、雅人の中の理性がキレて、ふっ飛んだ。


雅人は、無言で肩から滑り込むようにドアの内側へと入り込み、かほりを横から捉えた。


部屋の電気が全て消えた。

灯りは、窓の向こうの夜景だけ。

仄(ほの)暗い中で、2人の息づかいと、鼓動が響く……。


もちろん、かほりに抵抗する意志なんて、毛頭ない。

やっと、雅人に……逢えた……。

この腕は、唇は、何も変わらない。

私以外の誰かのモノだなんて……信じられない……。


かほりは夢中で雅人を貪った。


話をしたい……。

そう思って来た。

でも、本当にしたかったのは……雅人の気持ちを確かめること。


言葉より、音楽。

音楽より、抱き合う……それだけで……全てを理解できる。

愛しさが溢れ出す。

大好き……大好き……大好き……。

愛しさがめくるめく快楽に変わる……。


不意に、雅人の動きが止まった。

ポタリと、生温かいモノがかほりの顔に落ちてきた。

汗かと思ったら……涙?


雅人が鼻をすすって、震える声で言った。

「ごめん……俺……」


泣いてる……。

雅人……。

かほりはそっと手を上げて、雅人の頬にあてがった。

ゆっくりと涙を指で払う。

「愛してるわ。」

かほりはそれだけ言って、雅人の首に両腕を回して、ぎゅーっとしがみついた。


雅人はかほりに身を委ねるようにベッドに転がった。

かほりは雅人の頬に、ひたいに、唇に……何度も口づけて、あやすように繰り返した。

「雅人を、愛してる。初めて逢った時から、ずっとずっと愛してる。……雅人も……、私じゃなきゃ、ダメでしょう?」

まるで洗脳みたいだな……。

心地いいトーンで愛の言葉を繰り返すかほりに、雅人の胸がいっぱいになった。