何度でもあなたをつかまえる

……来月も、呼んでもらえたんだ……。

「ありがとうございます。」

かほりは、自分が誉めてもらえたよりもうれしくて、お礼を言った。

店員は、単に次の予定を先に教えてくれたことに対してのお礼と受け取ったようだった。


お会計を済まして、地上に出た。

さっきまで、不吉で嫌な空気に感じたこの街が、何だかキラキラ輝いて見えた。



ホテルに戻ると、すぐにシャワーを浴びた。

旅の垢を落としてさっぱりしてから、再び薄化粧を施して、服を身に着けた。

時計は、23時半を回っている。

深夜営業のバーか、24時間営業のファミレスやカフェぐらいしか、もう開いてないだろう。

ホテルの人に、適当なお店を聞いてみようかしら。

ネットで地図を眺めても、どの店が該当するのかよくわからない。

かほりが、部屋に備え付けの電話に手を伸ばしたその時、ホテルの電話ではなく、かほりのスマホが鳴った。


雅人だ!

「はい。かほりです。……ライブ、お疲れさま。お店の人が誉めらしたわよ。来月も出演依頼するって。」

いつもより饒舌なかほりに、緊張していた雅人の気持ちがふっとほぐれた。

「ああ。引き留められて、オファーもらった。それで、ちょっと遅くなっちゃったよ。ごめん。待った?今、どこ?ホテル?」

かほりが相づちを打つ前に、雅人はたたみかけた。

「部屋、何番?なんか、柄悪そうな奴らがいるから、迎えに行くよ。」

かほりはルームキーを確認して伝えた。

最上階の角部屋。


雅人は、既に目星を付けて、ホテルのロビーから電話を寄越していた。

かほりの予想よりはるかに早く……あっという間に、ドアベルが鳴らされた。

念のために、ドアスコープを覗くと、照れくさそうな雅人がいた。


「はぁい。」

かほりは、靴を履き、小さな鞄を肩に掛けてから、ドアを開けた。


雅人は、出かける準備万端なかほりを見て……イラッとした。

この部屋に雅人を入れるつもりは、ないのか?

……電話で「迎えに行く」と言ったのは、ただの言葉のあやだ。

かほりの取った部屋に押し入る気まずさをごまかしただけだ。


そこは、汲み取ってくれよ。

……いや。

そーゆーとこ、昔から、あるよな。