何度でもあなたをつかまえる

オリジナル曲には迫力があったが、彼らの熱意と現在の状況が生々しく伝わってきて……妙に店内がしんみりした気がする。


気を取り直したように、次は明るいミュージカルナンバー。

さすがに踊りはしなかったものの、一条はエレキギターに持ち替えて、ノリノリで演奏した。


しばらくすると、雅人があのミュゼットを装着した。

珍しい楽器に、客がざわつく。

すると、雅人は歌いながらミュゼットを演奏して……客のテーブルを回り出した。

間奏では、客に話しかけて、曲のリクエストを尋ねてるようだ。


……来る……。

さすがに、かほりの胸がドキドキと音をたて始めた。

と、同時に、雅人の結婚相手……りう子という女性が近くにいるのか……はじめて気になった。

もしその人が見ていたら……雅人は……私を無視するのだろうか。

ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような、強い痛みを覚えた。


……絶対に無視なんか、させない。

かほりは、毅然と顔を上げた。

ほほえみすら浮かべて、こちらに向かってくる雅人をガン見して待ち受けた。



まさか店内に、かほりがいるなんて想像もしなかった雅人は……奥のテーブルに独りで座っている女性に、純粋な興味の視線を向けた。


愛のない結婚は、あっさり破綻している。

むしろ、気晴らしに、このところ、遊びが一層激しくなっている。

さすがに、東京から追っかけてきてくれたり、プレゼントに電話番号を仕込んであからさまに誘ってくるファンの女の子には、後々ややこしいことになりそうなので手を出さない。

しかし、熱烈なファンではない客の女性とは、お互いのノリで一夜のロマンスを楽しむことも多々あった。


さて、あの子は、どうかな?


軽い気持ちで奥のテーブルへと近づいた雅人の足が止まる。

演奏していた手がもつれ、不協和音が鳴り響く。


かほりは、思わず、両手で両耳をふさいだ。

ハッとしたように、雅人が慌てて演奏に身を入れた。

けど、視線はかほりを見つめたまま。


かほりは、耳から手を放すと、ほっとして、雅人にほほえみかけた。


ただいま。

帰って来ちゃった。



暗い店内で、かほりの笑顔は、雅人には光り輝いて見えた。

と、同時に、雅人は、ハッキリと思い出した。

自分がいかにかほりを愛していたか……。