何度でもあなたをつかまえる

店内の灯りが、暗く落とされた。

逆に、ステージ……と言うには、あまりにも小さなスペースにライトがともる。

椅子に座った3人は、客席にお辞儀をした。

熱心なごく一部のファンが拍手をするぐらいで、あとの客は冷めた目で見ていた。


空気はすぐに変わった……。

3人は、突然歌い出した。

アカペラで、店内に響き渡る美しいハーモニー……。


聞いたことがあるけど……なんて曲だったかしら。

優しい音楽。


「ロマンス♪」
「ロマンス♪」
「ロマンス♪」

と、3人が余韻のように続けて順に歌うのを聞いて、思い出した。

昔、雅人が1人で歌っていたわ……。

途中から、茂木がベースを、一条と雅人はアコースティックギターを演奏しながら歌い上げた。

あまりにも美しい、完成された音楽に、店内の客は陶然として拍手をした。

少し大人な落ち着いた客層にぴったりの素敵な演奏だった。


「改めまして、こんばんは。本日3度めのIDEAです。」

茂木が、低いイイ声でそう挨拶した。

「えー、ただいまの曲は、懐かしい……と、申しましても、もちろん僕らはリアルタイムで知ってるわけではなくて、ですね、我々のおじいちゃんおばあちゃん世代ぐらいですかね……」

そう振られて、雅人が茂木にうなずいて、補足した。

「1958年に全米第2位になったヒット曲ですね。フォー・プレップスの『26マイル』。ロサンゼルスから26マイル、約42キロ離れたサンタ・カタリナ島を歌っております。」

半世紀以上前の曲ということらしい。

一条がソフトな声で言った。

「ロマンスの島、サンタ・カタリナ島。……今夜はここ、大阪がみなさまのロマンスの島となりますように……。」

カツカツと、雅人がギターを叩いて拍子を取り、「サンタ・カタリア」の部分を「大阪」と言い換えて、ワンフレーズだけハモって歌い上げた。

ウケ狙いにしては上手すぎて、笑えない。

客はみな、美しいハーモニーに、ただただ聞き惚れた。



続いて、サイモン&ガーファンクル、ピーター、ポール&マリーと、ギター2本と3人のコーラスで有名なフォークソングが続く。

デビュー前の3人に戻ったみたい……。