何度でもあなたをつかまえる

かほりは知らないが、ちょうどタクシーから降りた辺りは、本来なら忌み地であってもおかしくない曰く付きの場所だ。

江戸時代の250年以上の間、墓地、刑場、焼き場があったところで、今なお地下にはおびただしい数の骨が埋まっているだろう。

かつて、さらし首が並んでいた辺りは、特に禍々しく、今なお空気がよどんでいるように感じる。

あの、新撰組の近藤勇の首も、わざわざこの千日前のさらし場にも運ばれた。

角座という芝居小屋の二階の楽屋からは、首の並ぶさらし場がよく見えたという……千日前はそんな場所だった。


目指す店は、すぐに見つけた。

地下に降りたところにあるらしい。

……ライブハウス……というよりは……演奏スペースのあるクラブといった風情だろうか。

IDEA(イデア)の名前も案内も見当たらないことが、悲しかった。


お店も、入口も、通路も小さいので、かほりはスーツケースを持ったまま入ることに抵抗を覚えた。

周辺を少し回ると、コンパクトなシティホテルが目に入った。

エレベーターでフロントへ。

ビルの中に、お洒落なパティオがかわいいホテルだった。


宿泊をお願いし、スーツケースを預けると、覚悟を決めてIDEAがいるらしいお店へ足を踏み入れた。

暗い、何となく煙たい、空気の悪い店内に、ヒトはそこそこいるように思えた。

30人ぐらいだろうか。

さざなみのような談笑と、食事を楽しむフォークやナイフを扱う音がたまに響いていた。


男性店員が、かほりを見つけてやってきた。

「いらっしゃいませ。」

「……あの……こちらは、音楽の生演奏が楽しめるとうかがって参りました。」

勝手がわからないので、そんな風に尋ねてみた。

すると店員は笑顔でうなずいた。

「ええ。次は9時半からですわ。……音楽を聴きに来られたんでしたら、バンドの近くの席がよろしいですか?」

「……むしろ、少し離れたところがいいです。……あの……1日に何ステージ演奏をされるのですか?」

店員が席に案内しながら答える。

「うちは夕方5時半に店を開けます。生演奏は3回。6時半、8時、9時半。だいたい30分ぐらいのバンドが多いのですが……今日は1時間ぐらい演奏してくれてますね。いいバンドですよ。」

いいバンド……。

かほりの胸に温かいモノが広がった。