何度でもあなたをつかまえる

ハッキリ言って、雅人とはお似合いと思えないし、浮ついたところもないように見える。

普通に出逢っていたら、友達になれたかもしれない。

そんな不思議な感覚を呼び起こさせる、女性だった。

むしろ、雅人が、かほりよりもこの女性を選んだというのなら、仕方ないと思えるかもしれない。


……でも……違う。

雅人は、彼女に恋をしていない。

一目見れば、わかる。

何か、事情があるのだろう。


お金?

それとも……不本意な妊娠?


何があったの?

いくつもの可能性と、荒唐無稽な想像が、かほりの頭を席巻した。

半日に及ぶ長いフライト中、かほりはほとんど眠ることもできなかった。





1年半ぶりの日本は、雪がちらついていた。

かほりは、荷物が出てくるのを待ちながら、父に電話をかけた。

『……早かったな。先に言えば迎えに行ったのに。』

苦笑交じりの父の声。

「ただいま帰国いたしました。……あのハガキ、差出人の住所は、IDEA(イデア)の新しい事務所のようですが……」

雅人の新居はどこ?……とは、さすがに聞けなかった。


かほりの気持ちを推し量るように、千秋は尋ねた。

『そうらしい。奥方は、以前彼らが所属していた事務所の女性だそうだ。……一旦、家に帰るかい?それとも、早速、雅人くんを訪ねて、責める気か?』

「……お二人に、お会いしたいと思っています。」

意外と落ち着いているらしいかほりに、千秋は少しホッとしたが、念のために申し添えた。

『わかっているとは思うが、今までのように浮気相手を糾弾するのとはわけが違うよ。……むしろ、かほりのほうが分が悪いということを、忘れないようになさい。』

かほりの胸がズキンと痛んだ。

事情はよくわからない。

けど、私の知らない女性が正当な妻という権利を有していて、私は……部外者?


ぶるっと全身に震えが走った。

かほりはやっと、結婚の意味する重みを知った。



ターンテーブルにかほりのスーツケースが流れて来る頃、父からのメールを受信した。

あいにく今夜は、雅人たちIDEAは大阪に営業に行っているらしい。

……大阪。

このまま飛行機で飛べば1時間ほどで行ける……。