何度でもあなたをつかまえる

苦しくて、せつなくて……どうしても、雅人に会いたいと思った。

上書きしてほしい。

空とのキスを忘れさせてほしい。

身も心も雅人でいっぱいにして、忘れさせてほしい。


雅人……。

助けて……。





泣き疲れた頃、かほりは日本からの郵便物か届いていることに気づいた。

角を微妙に面取りした、白い上質な封筒は、父専用のオーダー品だ。

裏返すと、ブルーブラックの万年筆で父の名前が記されていた。


……何かしら?


普段から、父とはこまめにメールでやり取りしている。

わざわざ封書を送ってきた意図がわからない。

雅人の写真か何かを送って来てくれたのだろうか……。


かほりは、何の気なしに開封した。

中には、ハガキが一枚……宛名は、父の名前だ。

自宅ではなく、会社の住所と肩書きに違和感を覚えながら、封筒から取り出した。

会社関係のかたからのハガキを、どうして私に送って来られたのかしら……。


くるりと裏返す。



……。




そのまま、かほりは固まった。






呼吸、鼓動、まばたき……生きている限り、休みなく動くものなのね……。


どれぐらい時間がたったのか……数秒なのか、数十秒なのか……数分たったのか……よくわからないけれど、我に返ったかほりは、ぼんやりとそんな風に考えていた。

怒りも、悲しみも、感じなかった。


ただ、やるべきことを粛々と始めた。

荷造り。

そして、飛行機の手配。


幸い、今夜の飛行機に空席があった。

ミュンヘン乗り換えで、明日の日本時間15時50分着。


着いたらすぐにお父さまに連絡しよう。




機上のヒトとなって、ようやく息をついた。

かほりは、一瞥しただけですぐに封筒に戻したハガキを、再び取り出した。

……全く幸せそうじゃない雅人と、やっぱり幸せそうにはとても見えない女性の……結婚の挨拶状。

滝沢……りう子?

りゅうこ、と呼ぶのかしら。

旧仮名遣いの名前は、かほりと同じ。

親近感を覚えないと言ったら嘘になる。

……いや。

不思議なことに、かほりは、雅人と結婚したらしいこのりう子という女性に対して、嫉妬も憎悪も感じなかった。

知的な雰囲気の素敵な女性だ、とさえ思えるのだ。