何度でもあなたをつかまえる

涙をハンカチで押えてからテーブルへ向かう。

今にも倒れそうなかほりを、親切そうなおじいさんやお姉さんが心配そうに肩を抱き、背中をさすってくれた。

……下心ありげな男性に対しては、容赦なく払い除け、ようやく東出のいるテーブルにたどり着いた。


「目が据わってるぞ。……まあ、飲め。」

それでもなお飲ませるのか。

東出からグラスを受け取ったかほりは、一気に冷えたケルシュを流し込んだ。

口中は心地よかったが、食道も胃も火を流し込んで焼け付くように感じた。



外でまたひときわ大きな歓声と拍手が上がった。

賑やかな音楽がどんどん近付いてくる。


「賑やかなのが、来たな。」

東出が目を細めてそう言った。

てっきりパレードの団体のことだと思ったら、人波をすり抜けるように空が現れた。

「ヘル東出~!かほり~!」

空は笑顔で走ってくると、東出に抱きついて、頬にキスした。

「……お前……酔ってるな。」

まんざらでもなさそうな東出に
「全然!」
と、言い張って、再び空は東出の頬にキスした。

そして、勢いよく両手を広げると、素早くかほりを横から捕まえた。

「ちょっと!そらくん!?んっ!んんん……。」

そらは、何を血迷ったか、かほりに強引にキスした……頬ではなく、唇に。

逃れようとするかほりの両腕を、がっちり掴んではなさない。

酔ってるわけではなく、カーニヴァルのノリに乗じて、これまでの思いの丈をぶつけているようだ。


しかし、かほりには、空の身勝手なキスに応える義務はない。

雅人としか付き合ったことのない……雅人以外の男に触れられることすらおぞましいと本気で思っているかほりは、空から必死に逃れようとした。

男の力に敵わないことを正しく理解すると、今度は、図々しく入り込んで来ようとする空の舌に強く歯を立てた。

多少抵抗されるのは予想していたとしても、まさか舌を噛まれるとは思ってもみなかったらしい。

慌てて空がかほりから離れようとしたため、かほりの歯は空の舌のみならず唇にも突き刺さったようだ。

空はかほりから離れて、両手で自分の口元を覆った。

指の隙間から血が滴り落ちる。


……血の匂いにむせかえりそう。


どうやら、かほりの唇にも空の血が付着したらしい。