何度でもあなたをつかまえる

「それは……うれしいかも。」

自身の料理スキルの低さは身にしみてわかっている。

雅人は何でも作れるけど、かほりといると、食事の優先順位が低くなるので、結局、侘しい食事しかできてない。

2人とも空きっ腹でも演奏していたいし、抱き合っていたい……。

……つくづく、生活感のない2人だと思う。

そりゃあ、普通の結婚生活なんて続くわけないわよね。

今さらのように、かほりはしみじみとそう感じた。



「茂木さんも一条さんもちゃんと人として、まっとうな生活できてるのかしら。」

突然のかほりの疑問に、雅人は笑った。

「離婚してないんだから、できてんじゃないの?」

「……そうね。仲いいのかな。さとりちゃんは家庭的だったわね。一条さんの奥さまはせっかく東大をご卒業されたのにお仕事してらっしゃらないのよね?……私も、音楽は趣味に留めて、家で雅人を待つべきだったかしら。」

おやおや、と雅人は後悔しているらしいかほりを見た。

「今さら何言ってんの。てかさ、俺、かほりのチェンバロ大好きだもん。ちゃんとした教会とかサロンとか小ホールで聞くと感動が違うしさ。これからも聞かせてよ。……生き方も、パートナーとのありかたも、みんなそれぞれでいいじゃん。遠回りもしたけど、ちゃんと、自分にふさわしい相手と幸せに生きてるよ。俺は、かほりやゐねとのアンサンブルが最高に幸せだし。一条は、尋常じゃない乱読家だから、本好きな奥さんと古い本の話をするのが好きなんだって。」

「……茂木さんは?……あんまり趣味の話とか聞かないけど……。」

かほりの問いに、雅人はにやりと笑った。

「うん。ない。……茂木自身も無趣味だから、本や音楽の話をまったくしないさとりちゃんが楽なんだよ。」

……なるほど。

「本当ね。……ちゃんと、自分に合ったパートナーと、それぞれのペースで暮らしているのね。……だからIDEAはイイ関係を継続できるのね。……3人が出逢って、もう25年だものね。」

しみじみとかほりがそう言うと、雅人は目を細めてかほりを抱き寄せた。

「かほりとは、もう33年だよ。……間はちょこちょこ抜けてるけど。」

「まあ……それも私たちらしいのかもね。」

くすくすと笑い合って、2人はどちらからともなく唇を重ねた。