何度でもあなたをつかまえる

「心が繋がっていればいいわ。」

小さなつぶやきが、雅人の耳に心地よく響いた。

「……かほり……。」

「ごめん。起こしちゃった。」

「……ん……。かほりに、起こされるの……好き……。」

まだ眼を閉じたまま、雅人は両手をあげて、かすかに動かした。

……手招きしてるつもりらしい。

かほりが屈むと、雅人はガバッとかほりを捉えた。

「つかまえた。」

うれしそうな雅人の声に、かほりの胸が幸せで満たされた。

「うん。つかまった。……夕べはお疲れ様。かっこよかった……って、ゐねがほめてたわよ。」

「……電話くれたよ。午前2時に。ボストンは正午だ、って。……思いついたが吉日、なんだってさ。向こうに一軒家を借りたいらしいよ。名義と金は俺で。」

苦笑する雅人に、かほりは目をパチクリさせた。

「家?……普通に、留学生用のお部屋を借りることになってるんだけど……。」

「うん。でも、それじゃ、手狭なんだって。週末に千尋くんが泊まりに来れて、仕事で来た東出さん達が遊びに来れて、……俺とかほりがいつでも好きなだけ滞在できる家がいいんだって。」

「まあ……!」

「さすがというか、何というか……。千秋さんでもかほりでもなく、俺にねだるのが……ちゃっかりしてるというか……賢いよな。」

まんざらでもなさそうな雅人を、かほりは少し睨む。

「まさか、そんなワガママ……聞かないわよね?」

「いや。もう現地の不動産屋に頼んで、仮押さえしたよ。……ちょうどいいからさ、俺もバークリーのセミナーとか受けてみよっかなって。」

キラキラした瞳は、ゐねと同じ……新しい世界への希望と期待に満ちていた。

どうやら、止めても無駄らしい。

「……何だか、疎外感。……2人で勝手に決めて、ずるい。それに、ゐねとは電話とかするんだ。……ふーん。」

かほりは珍しく拗ねた口振りでそうこぼした。

くしゃっと、雅人の綺麗なお顔が笑顔で歪んだ。

「娘にヤキモチ?……馬鹿だなあ。ゐねはココの鍵を持ってないからね。俺が居ないと入れないから電話してくるんだよ。かほりはフリーパスじゃん。」

まだ釈然としなさそうなかほりに、雅人はささやいた。

「かほりもボストンの仕事入れなよ。東出さんに頼めばねじ込めるんじゃない?……向こうならさ、人目を気にせず一緒に外食もできるんじゃない?」