何度でもあなたをつかまえる

「……無理に家族って枠に入る必要ない。ママにはママの仕事があって、パパにはパパの仕事があるんだし。……今の状態って、むしろ楽ちんなんじゃない?お互い、ストイックに練習するためには、自分だけの時間が必要だし。」

「いっちゃんがそう言うなら、それでいいけど……。いいの?本当に。……ステージの雅人パパかっこよかったよ。自分のパパだって、誇りたくない?」

なおも気遣わしげに千尋はそう聞いた。

ゐねは、ニコーッと笑った。

「うん。パパ、かっこよかった。びっくりしちゃった。人気もあるのね。……うれしかったわ。」

それから、ゐねは表情をひきしめ、口調を改めた。

「でも、ちろ?パパはパパ、ママはママよ。いつもおじいさまがおっしゃってるでしょ?家や親の名声を自分のアイデンティティだと勘違いしちゃいけない、って。」

「……いっちゃん……。……なんか……達観してるね……。」

離れていた8ヶ月間に、ワガママなお嬢さまは大人の女性へと移行してしまったのだろうか。

多少淋しそうな千尋に、かほりは微笑んだ。

「2人とも……もう子供じゃないのね。千尋くん、すっかり頼もしくなって……。安心して、ゐねをボストンに送り出せるわ。」

「あ。ママ。予定、早めてもいいかしら。……後期の試験が終わったら、渡米していい?」

「いっちゃん!?」

突然、2ヶ月以上前倒しで留学先へ行くと言い出したゐねに、かほりよりも、千尋が驚いたようだ。

「……いいけど……お願いしてるお部屋は3月末まで空かないんじゃない?……千尋くんは、大学の寮だし……。ずっとホテルに泊まるの?」

かほりは、現実的な心配を口にした。

「それでもいいけど……いいこと思いついたんだー。」

ニマニマとゐねが笑った。

……自信たっぷりなこの顔……ホント、雅人と同じ表情だわ。

愛する男と、愛する娘。

男女差はあれども2人がとてもよく似ていることが、かほりはうれしくてうれしくてたまらない。

「……そう。淋しいけれど、ゐねが行きたいのなら仕方ないわね。」

かほりは、娘をまぶしく見つめた。




翌日の午後、かほりは雅人の家を訪ねた。

明け方までスタッフと飲んでいた雅人は、まだ眠っていた。

ステージでは活き活きとしていたけれど、こうして眠っていると……年相応ね。

まあ、ヒトの事は言えない……か。

来月は、娘が成人式を迎えて、渡米する。

……雅人と、かほりと、ゐね。

かつては同じ家に住んでいた家族が、本当に、バラバラになり、それぞれの場所で生活を始める。

でも……。

かほりは、幸せそうな雅人の寝顔を見つめて、ふふっとほほ笑んだ。