何度でもあなたをつかまえる

千尋が、かほりに突っかかるのは、初めてのことだった。

驚くとともに、かほりはうれしくなった。

それだけ、千尋が娘のゐねのことを大事に想ってくれているということに他ならない。

「……そう。そんな風に思ってたのね。……ありがとう、千尋くん。……知らなかったわ。」

「ね、何の話してるの?……ちろ、ママを責めてる?」

呆けていたゐねが、慌てて首を突っ込んできた。

かほりは、娘にほほ笑んだ。

「違うわ。千尋くんは、ゐねが言えないことを教えてくれたの。……ごめんなさいね。雅人が私達のことを隠していたのは……最初はIDEAの為だったけど……今は、むしろ私達のためよ。」

「……パパの隠し子だって知られたら、騒がれるから?」

ゐねは、意外とサバサバそう言った自分に驚いた。

……ほんの半年前までは、千尋の言う通り、自分は父親の経歴から抹消されたかわいそうな子だと思っていた。

でも、夏の終わりに、雅人と再会して……別にたいした話もしていないし、好き勝手に楽器を弾くだけの時間を何度か過ごしただけなんだけど……何となくわかった。

雅人は、かほりのことも、ゐねのことも、ものすごーく、偏執的に愛しているって。

自分の名声どころか、自分の命よりも、大切に想っている。

だから、もしかほりが……、もしゐねが、もう一度家族になりたいと言えば、その足で区役所に行くだろう。

そして、公表してほしいとお願いすれば、例え巨額の違約金が発生するような事態になったとしても、雅人は結婚、離婚、そしてゐねの存在を1つも隠すこともなく発表するだろう。


……拍子抜けするほど、あっさりと……何もかも捨ててしまえる男……。

何て言うか……危うくてしょうがない!

りう子達がオフィシャルには管理してくれているし、精神的にはかほりが支えているけれど、……そのどちらかが欠けても、あっという間にどん底まで転落していくのだろう。

そんな手の掛かる、めんどくさい男と、マスコミの餌食になる犠牲を払ってまで、再び家族になって、公表するなんてメリットよりもリスクが大きすぎる。


「今はいいわ。……パパかママが、一緒に暮らしたくなったら、再婚すればいいんじゃない?」

ゐねはそう言って、千尋の腕を取った。