何度でもあなたをつかまえる

「いい子だ。じゃあ、行こうか。」

雅人はゐねの肩を抱いたまま聖堂へのドアを開けた。

備え付けの木の椅子だけでは足りないらしく、周囲と後方にパイプ椅子が並べてあったが、それもほぼ埋まっていた。

座ることを諦めて、雅人は奥まった後方に立った。

荘厳な聖堂に、かほりのバッハが響き渡る。

美しいだけじゃない、敬虔な気持ちにさせる音色に、雅人の瞳が滲んだ。

「……こんなクリスマスを迎えられるなんて夢にも思わなかったよ。……ありがとう。」

雅人はそう言って、ゐねに、それから神に感謝していた。



最後にかほりは古い賛美歌を奏でた。

「The First Noel。今夜、俺たちもアンコールでやるよ。」

雅人がゐねにそう囁いた。

CMなどにも使われる美しいクリスマスキャロルは、どれだけ汎用されても素晴らしい曲だ。

ゐねは雅人に笑顔で伝えた。

楽しみだ、と。



いつの間にか、雅人の存在に聴衆が気づき始めたようだ。

「……まずいな。場を壊しちまいそう。……俺、行くね。千尋くん、ゐねを頼むよ。」

「え?」

驚いて振り返ると、少し離れたところに、千尋が立っていた。


千尋は、慌てて雅人に頭を下げた。

雅人は、ひらひらと手を振って、出て行ってしまった。



「いっちゃん……。」

曲が終わるのを待って、千尋は口を開いた。

「……その……謝罪と言い訳……させてくれるかな?」

ゐねは真顔でこっくりとうなずいて、それからちょっと笑った。

「ちろがもう少し音楽ができたら、一緒に演奏するだけで氷解できるのにね。……仕方ないから、全身で教えて。他の誰よりも、私が好きって。……ちゃんと、私に、伝えて。」

千尋は生唾を飲み込んで、ゐねに手を伸ばす。

「ダメ!あとで!」

ゐねはそう言って逃げようとしたけれど、千尋の腕の中に捉えられてしまった。

「……もう。今じゃないのに……。」

気恥ずかしくて、ぶちぶち文句を言うかほりに、千尋は言った。

「今も、あとも……ずっとずっと……俺のそばで、俺だけ見ててほしい。いっちゃんがいない日々がどれだけ無味乾燥か……身にしみたよ。」

「……淋しかった?……でも、私は……ちろと離れてよかったよ。」

「え……。」

ゐねの言葉に、千尋は固まった。

千尋は恐る恐るゐねから身体を離し、キラキラと輝くゐねの瞳を見つめた。

ゐねは笑顔で言った。

「だって、当たり前じゃないってわかったもん。ちろと私。……こうしていられるのって、奇跡だから。」

千尋の頬もほころんだ。

そうして、2人は、どちらからともなくキスを交わした。