何度でもあなたをつかまえる

……触ってもよさそうだな。

「よしよし……。こんなになるまで飲むなんて珍しいね。……何飲んだの?」

雅人はかほりを抱き寄せ、背中をさすりながらそう聞いた。

「芋焼酎。村尾。25度。ストレートで。……そのあと、お寿司~。」

むふむふと変な笑い声まじりに、かほりはそう言って、雅人の胸にぐりぐりと頬を押し付けた。


「……て……食べる前に、焼酎をそのまんま飲んだってことか?……無茶するなあ。誰に飲まされたのさ。」

「お義姉さま~。京都でお会いしたのよ……。偶然……あら!飲まされてなくってよ。お義姉さまはお湯割っておっしゃって……」

そこまで言って、かほりは押し黙ってしまった。


じわ~っと雅人胸のあたりが熱くなってきた。

……泣いてる?


「かほり?大丈夫?」

雅人はかほりの両肩を持って、少し自分から起こして、その顔を覗き込んだ……ら……

「……寝てる……。」

かほりは、再び気を失うように寝入ってしまっていた。

……涙だと思った水分は……涎?


「はは……」

緊張した自分が滑稽に思えてきた。


何だ?これ。

不用心にも程があるぞ。

お持ち帰りし放題、窃盗もし放題じゃないか。


……にしても……おねえさまって、滝沢さんじゃないのか?

百合子ちゃんのお母さん?



とりあえず……東京駅に着いてしまった……。

雅人は、かほりを起こすことを断念して、抱き上げた。

……軽いな。

昔より痩せたんじゃないだろうか。


「尾崎さん?え?どうしたんすか?」

まだ残っていたスタッフの1人が、かほりを抱いて立ち上がった雅人に気づいてやって来た。

「しーっ。起きちゃうから。……ごめん、この荷物さ、明日でいいから事務所に運んどいてくれる?滝沢さんに渡して。これも。」

雅人は、かほりのハンドバッグだけを持って、あとの荷物は全てスタッフに託して新幹線を降りた。


深夜とは言え、東京駅にはまだまだ人が往来している。

今や、日本の音楽界に確固たる地位を築いたIDEAの尾崎雅人が女性を抱き上げて歩くのは、さすがにひと目につきすぎた。


「急病人ですか?」

鉄道会社の職員も気づいてやって来た。