何度でもあなたをつかまえる

かほりと違って、好奇心の尽きない雅人は、花火を追いかけてライン川までやってきた。

ドイツ鉄道の通るホーエンツォレルン橋は傍らが遊歩道になっていて、壁面のフェンスにはおびただしい錠前がぶら下げてある。

まるで神社の絵馬のように、鈴なりを通り越して、空間を埋め尽くしている。


「これって……よくあるやつ?永遠に離れないように、恋人たちが鍵をかけてぶら下げて、鍵はライン川に捨てちゃうの?……迷惑だなあ。ラインのお魚さんたち。」


少年時代、魚や昆虫を採取しては飼っていた雅人は、粗悪な鍵から流出するであろう金属物質に眉をひそめた。


その反応を見て、かほりはハンドバッグにこっそりしのばせてきた小さな赤い錠前を出せなくなってしまった。

……鍵を川に捨てなければ、ココに付ける意味もない。


何も言えないかほりに、雅人が気づく。

「……もしかして、かほり、準備してきた?」


ドキッとした。


頬を染めて、かほりはかすかにうなずいた。

「ごめんなさい。魚の迷惑まで考えなかったわ。……ナンバーロックの鍵じゃ、意味ないかしら。」


ぶぶっと、雅人が吹き出して笑った。


……かわいい……たまらなく、かわいいよ。


雅人は、かほりを腕の中に引き寄せた。

うれしそうに、雅人を見上げるかほりの瞳がキラキラ輝いていた。


「出して。鍵。」

雅人にそう言われて、かほりは慌ててハンドバッグを開けた。

小さな赤い錠前には、真鍮の鍵が2つ付いていた。


油性ペンを差し出すと、雅人は迷わずペンをとり、わずかなスペースに器用に書き付けた。

2人の名前と、今日の日付。

そして、錠前に軽くキスすると、かほりの唇にも軽く押し付けてからフェンスに施錠した。


何の迷いもない雅人の一連の動作に、かほりは天にも昇る心地になった。


雅人がかほりを愛してくれていることは、わかっている。

でも、こんな風に、将来を見据えた約束をしたことはない。


……浮気は数知れずあるし、たぶん束縛されたくないだろうし……どれだけ、今が幸せでも……先のことはわからない。

それが、雅人とかほりの関係だった。


なのに、こうして、永遠の愛を誓う儀式のような遊びに自ら興じている雅人。


……もしかして、芸能界で苦労をして……かほりと堅実な生活を思い描くようになったのだろうか。