雅人は滞在中、完全防音の密室で、夜ごとにかほりを支配した。


昼間は、暖かいグリューワインで暖をとりながら、市内に点在するクリスマスマーケットを回った。

教会のミサやコンサートで、生活に根付いたバロック音楽を楽しみ、時には、酒場で飲み歌い踊った。


大学は、日本より長めのクリスマス休暇に入っている。

クリスマス前には、空もアンナも帰省した。


かほりと雅人はケルンに残り、蜜月を過ごした。

昼も夜もなく、時間を気にせず、雅人と一緒に遊び回り、抱き合った。


単調なはずのレッスンでさえも、こんなに楽しいものだったのかと驚くほど、笑顔に満ちていた。


雅人と過ごす日々は、かほりを心身ともに充足させる。

ストレスで止まっていた生理が再開し、肌つやがよくなり、顔つきが穏やかになった。



ずっと一緒にいてほしい。

このまま、雅人と、この街で音楽を学びたい。


いつか……IDEA(イデア)が終わったら……改めて、2人で留学し直そうか。

ケルン、ハンブルク、ドレスデン……。


……いっそ、結婚してしまいたい。


ついついため息がこぼれた。


結婚、か。



そもそも、かほりと雅人は釣り合わない。

母も、兄も、兄嫁も、雅人の人柄や才能は認めていても、2人の仲は内心快く想っていない。

ただ、かほりの父親の千秋だけは、少し違った。


本来なら一番反対しそうな家長が、雅人の才能と人柄を愛していた。

もし、かほりが、雅人の子供を妊ったら……父は、悪いようにしないだろう。


その程度の希望が持てるぐらいには、千秋とかほりは音楽を通じて繋がっていた。




ニューイヤーは花火と賑やかな音楽に誘われて、夜中の街へと繰り出した。

「カーニヴァルはもっと賑やかなのかな。」

「そうね。11月も賑やかだったけど、2月はもっと騒ぐみたいよ?……来ない?」

雅人は、にっこりと笑顔をかほりに見せた。


……来る気になってくれたのかしら?


明確な返事はなかった。