何度でもあなたをつかまえる

「ああ。聞いたよ。かほりちゃんに指輪買ったって?プロポーズするんだろ?この曲は、尾崎とかほりちゃんの共作だな。歌詞も考える?」

「や。それは一条に頼む。俺、センスないもん。かほりは……悩ませたくないから。」


いつになくかほりを気遣う雅人の言葉に、一条は違和感を覚えた。


茂木が代わりに答えた。

「結婚するんだってさ。かほりちゃん、妊娠してるらしい。」


にへらっと、雅人の頬が緩んだ。


対照的に、一条は眉をひそめた。

「へえ。そりゃ……ご愁傷様。……よし。じゃあ、曲名と歌詞も2人を念頭に置いて考えるよ。……『COMPLEX LOVE』とか、『CHEATING』とか?」


ぶはっ!と、茂木が笑った。


雅人は、鼻白みはしたけれど、怒りはしなかった。

「今さらコンプレックスも浮気もないよ。『THE LAST LOVE』でいいんじゃない?……ダサいな。」

自分で言って自分でツッコんだ。




「あら、お帰りなさい。」

打ち合わせが終わったらしく、廊下の向こうから現れたりう子が、明るい声で雅人に声をかけた。

……既にかほりから連絡をもらって、事情は聞いているようだ。


りう子は、いつもとはあきらかに違う上機嫌な様子で雅人に言った。

「かほりちゃん、おめでたですってね。……橘の家はお祭り騒ぎよ。愛娘の妊娠と結婚と、バツイチの息子の再婚が同時に決まって。」


「……へ?」

雅人は、最後の言葉の意味がよくわからず……りう子の顔をマジマジと見つめた。


りう子の頬がみるみるうちに赤くなった。


「え……もしかして……滝沢さん?」

「なに?結婚するの!?」

茂木と一条がはしゃいで確認し、わいわい騒ぎだし、祝福ムードに包まれた。


りう子は恥ずかしそうにうなずいた。

「そうなの。幸か不幸か、尾崎と義理の姉弟になっちゃうみたい。」

「……うわぁ……すげぇご縁……。」

よくよく、りう子と雅人は縁が深いのだろう。

一度は結婚までして、離婚しても仕事では懇意なまま……、今度は近い親戚にまでなるとは。

「そっか。おめでとう。いつ結婚するの?」

雅人に祝福されるのは、りう子としても、くすぐったい気持ちだった。