何度でもあなたをつかまえる

苦笑しながら、雅人はかほりの左手を恭しく捉えると、キラキラ輝く指輪を薬指に装着した。

「え……。これ……どうしたの?……ダイヤモンドよね?」

さすがにびっくりした。

驚くほど大きいものではないし、品質もそこまでよくはないかもしれない。

でも、ちゃんと本物のダイヤモンドが燦然と輝いている立派な立て爪リングだ。

「うん。エンゲージリング。今の俺の給料3ヶ月分。……ごめんね、かほりには、ちょっと……ふさわしくないけど……」

苦笑する雅人に、かほりはぶるぶると大きく首を横に振った。

「そんなことない!すっごくうれしい。……お給料3ヶ月分って……よく貯金できたね。」

そう言って、改めて指輪を眺めた。

一流ブランドのモノでなくても……母に買ってもらったダイヤより小さくてクォリティが低くても……品のいい素敵な指輪だった。

「や……貯金は……ないんだけど……。去年出したCDが今さらじわじわ売れてきてさ、滝沢さんがボーナスくれたんだ。」

雅人は頭をかいた。


……りう子さんが……なるほど……それで、こうして指輪を準備して、ケルンまで来てくれたのね。

かほりは、りう子の計らいに感謝して……涙ぐんだ。


雅人は、かほりの涙に、自分の胸が一杯になるのを感じた。

かほりじゃなきゃ、こうはならない。

かおりが悲しくて泣くのは見たくないけど、うれしくて泣いてくれるのは……俺まで泣きたくなってくる。


大好きだよ。

心から、愛してる。

ちゃんと、届いてるよね?

俺が、どれだけ、かほりを求めてるか……。

他の女の子なんか、本当に、どうでもいいんだ。

かほりさえ居てくれたら、それでいい。

だから……ずっと俺と……一生、俺と……


「かほりと、子供と……幸せになりたい。」

言葉と一緒に涙がホロッと1粒こぼれ落ちた。

うそ偽りない雅人の心だった。


かほりも……今度は、雅人の気持ちに感じ入って、改めて泣いた。

「うん。私も。……幸せになりたい。」

そう返事しながら、心のどこかに疑問が生じた気がした。

……幸せ?

私の、幸せは……雅人と一緒にいること……よね?

なのに、なんだろう……この違和感は。

私……欲張りになったのかしら。

それとも……?