何度でもあなたをつかまえる

「この鍵はさ、紆余曲折を経てせっかくこうして手元に残ってるんだから……子供のお守りにしようか。」

「お守り……。」


微妙な気がした。

その紆余曲折を考えると、ロマンティック……とはとても言えない……。

……まあ……雅人が、そうしたいなら……それで、いいけど……。

「わかったわ。紛失しないようにしまっておくわ。」

かほりはそう言って、雅人の腕に手を絡めた。

「さ。時間がないわ。行きましょう。空港まで送るわ。」



部屋を出ると、ちょうど、空がお茶やお菓子を届けに来てくれたところに出くわした。

「ごめん!せっかく入れてくれたのに。もう出るって。」

雅人は拝むように両手を合わせてそう謝った。


「あ……お茶入れてくれたの……ん~、一口だけもらってもいい?」

そらが笑顔でうなずくのを見て、かほりはホットミルクに口をつけた。


「……あーあー、お母さんが見たら嘆かれるよ。廊下で立ったまま飲むなんて、はしたない!って。」

雅人がからかうようにそう言った。


指摘されて、かほりは初めて、気づいた。

確かに私、ドイツに来てから、けっこうお行儀悪いって怒られそうな事してるかも。


恥じらってしきりに反省しているかほりがかわいくて……、空は目を細めた。

「大丈夫や。かほりは、いつも、ちゃんとしてる。……今のかて、俺に気遣ってくれてのことやろ。……ありがとう。気をつけて、いってらっしゃい。……しんどくなったら動かんと、連絡くれたら、迎えに行くから。」

優しい……それだけじゃない、心強さをもらって、かほりはこっくりうなずいた。

「ありがとう。いってきます。」

笑顔で手を振って、雅人と駆け足で出発した。



幸せいっぱいな笑顔なのに……何て危うく、はかないんだろう。

2人の後ろ姿を眺めて、空はため息をついた。

今はただ、心から、かほりの幸せが長続きすることを祈りたい。

あの笑顔が消えないように……。





ICEはケルン中央駅を出るとすぐにホーエンツェルン橋を渡り始めた。

このタイミングに合わせて、雅人はゴソゴソとポケットから小さなモノを取り出した。

「かほり。手を出して。これ。」

「なぁに?」

よくわからないまま、雅人に右手を差し伸べた。