何度でもあなたをつかまえる

……そうだ。

大事なこと、言わなきゃ。


かほりはハンカチで涙を拭おうとした。

すぐに雅人が、かほりからハンカチを取り上げて、代わりに拭いてくれた。


かほりは、がんばって口角を上げて、笑顔を作って見せてから報告した。

「来てくれて、うれしい。今日はすごい日だわ。さっき確認したの。ココに……ね、雅人の赤ちゃんを授かったの。」

そっとお腹に手を宛ててそう言うと、雅人はこれ以上はないというほど、大きく目を見開いた。


……驚愕……動揺……そして歓喜……。


雅人の瞳にいろんな感情がめまぐるしく顕れるのを、かほりは見逃さなかった。


……とりあえず、喜んでくれてる……。

それだけでいい。


かほりは、ホッとして、今度は心からの笑顔を見せた。

雅人は恐る恐る手を出して、かほりの下腹部に触れた。

「……子供……。」

「うん。子供。ちょうど排卵日にずっと……してたから……。よかったぁ。すぐに雅人に報告できて。……この子が……呼んでくれたのかな。」

かほりはそう言って、妊娠検査薬の結果を見せようかとも思ったけれど……自分の尿をかけたシロモノであることに思い当たって断念した。


雅人はしばらく固まっていたけれど、ようやく現実感を覚えたようだ。

「……どうしよう……。めっちゃうれしい……。はは……。やったな。そっか。そっかー。」

綺麗な雅人の顔がくしゃっと歪んだかと思ったら……雅人は目を赤くして、ちょっと泣いていた。

そして、かほりをがばっと抱きしめて、慌てて解放し、今度は背後からそーっと抱きしめた。


ずいぶんと慎重にお腹を気遣ってくれるのね……。


雅人の優しさを全身に感じて、かほりの心が温かいモノで満たされた。


「俺と、かほりの、子供……か。男かな?女かな?……どっちでも、いいや。かわいいだろうなあ……。顔と頭は俺に似て、性格はかほりに似て欲しいなあ。……いや、かほりそっくりでもかわいいけどね。うん。……かわいくないわけないよな。……俺たちの子供かぁ。……家族……。」

雅人はゆらゆら揺れながら、夢見がちにそんなことを口走っていた。

自分の育った環境から、普通の家族関係に対して憧れを抱いている雅人は、本当に幸せそうだった。