そんなかほりを手なずけた男……か。


雅人は、興味深く空を観察した。

空がかほりに好意を寄せていることは間違いないらしい。

もう１人の同居人、アンナに対しても普通に親切だが、かほりのことはかまいたくて仕方ないように見える。


……まるで、一般的なイメージの母親だ。



「He says himself that it is the mother of this house. Ah……OKAN？ But,……noticed ?」

隙を見て、アンナが英語で雅人に耳打ちした。


空は、彼自身のことをこのシェアハウスの「おかん」と言ってるけど、……ねえ、気づいてる？


スキンシップ過多な肉食美女は、雅人の反応を待とうともしない。

「He loves Kahori.」

低い低い声でそう囁いて、ニヤリと笑ってみせた。


雅人は舌打ちしたい気持ちを隠して、微笑をキープしたままうなずいた。


わかってる。

言われなくても、見ればわかるさ。

あいつはかほりを愛してる、か。


……させるかっ！


「She is mine.」

雅人はキッパリとそう言って、揺さぶって面白がっているアンナを鼻白ませた。




その夜、雅人は当たり前のようにかほりの部屋に泊った。

空によって準備された客室には、荷物を置いただけ。


同居人の前で、わざわざイチャイチャ見せつけてアピールする必要はない。

かほりの身体に、覚え込ませるだけでいい。

俺のモノだ、と。




「かほりの涙が苦手だった。」

優しさより、激しさで翻弄した後、意識が飛んだのか、目の焦点が合ってないかほりの乱れた髪を整えながら、雅人は言った。


「でも、気づいた。」


かほりが聞いてるか聞いてないのか……それすら、どっちでもよかった。

ただ、自分の中に生まれた感情を言葉にして、確認したかったのかもしれない。


「かほりを喜ばせたり、淋しがらせたり、……ごめん……、泣かせるのも、俺だけだ。」


ふっ……と、かほりが吐息のように嗚咽した。

ちゃんと聞こえていたらしい。


さまよう視線が雅人を探す。

目尻から溢れる涙に、雅人は苦笑して、枕元のティッシュをそっと押し当てた。


「やっぱり、見たくないや。」


そうして背後からかほりを抱きしめた。