何度でもあなたをつかまえる

プッ……と、東出は笑った。

ジロリとかほりが睨むと、東出は咳払いをした。

「失礼。続けてくれ。……別れてやればよかったのに。イイ薬になったんじゃないか。」

「私に仰ってるの?別れるなんて選択肢、私にはありません。……伊勢崎さんは……ご両親にも同席していただいてお話したのですけど……逆恨みされてしまって……彼女、高校生の時に漫画家デビューなさったの。」

「ほう!?」

東出が身を乗り出した。

「……2年間に4本の短編を発表されて……その全てのエピソードが雅人とのこと、そして、私とのことでした。外聞が悪いので、私の父が弁護士の先生と相談して、差し止めていただきましたが。」

「それ、おもしろかったのか?怨念こもってそうだな……。」

「おもしろいはずありませんわ。救いがありませんもの。……今は、男性同士の恋愛漫画を専門に描いておられるそうです。」

「はー。やるなあ。伊勢崎さん?……今度、読んでみるか。」

「……悪趣味ですのね。」

かほりは不愉快そうにそう言って、それから、ごろんと頬をテーブルにくっつけるように突っ伏した。

「一番浮気らしい浮気は……雅人の胃袋をがっちり掴むことに成功した和泉田さん。独り暮らしの雅人に、毎日お弁当を作ってくださっていたそうです。……彼女とは……その後も、たまに食事の世話になっているようでした。……もしかしたら、今も……。」

「和泉田……。和泉田ねえ……。和泉田……」


空港で見た女は……「キエ」と呼ばれてたか……

東出は、何となく聞き覚えがあるような和泉田という苗字に首を傾げていた。


「大学に入ってからは、IDEAの2人と健全な親友付き合いをしてる時間が多く、忙しそうで、隙をみて遊ぶ程度でしたので……あまり大きなトラブルはありませんでしたけど……一夜限りの遊びは数え切れないほどありましたわ。……アンナとも。……東出先生も、心当たりお有りでしょう?」

ギクリとした。

……バレてたのか……。

東出の背中に、冷たい汗が一筋流れた。


「そんな顔しなくても、けっこうですわ。慣れてますから。……クルーゲ先生もね。」

嫌味ではなく、かほりは淡々とそう言った。