何度でもあなたをつかまえる

「誰にでもわかりやすく親切で愛想のいい男性なんて……好きになってはいけませんね……。」

かほりの自嘲に、東出は顔をしかめた。

「……不細工、せめて十人並みな男なら、よかったな。……あいつは……乙女心も、マダムの庇護欲も、ゲイの純情も、根こそぎ持ってくルックスがなあ……。」

変な比喩だったけれど、適当じゃなくて……少なくとも、東出の知る雅人の遍歴の一端なのだろう。

かほりも知らない関係もありそうで……何だか、心がねじくれてしまいそうだ。


……もう……知りたくない……。

これ以上、抱え込みたくない……。

楽になりたい……。


かほりは、涙とともに闇をこぼし始めた。

「……もてないわけがない……最初から……女の子の影がいつもつきまとってました……。知ってます?小学生でも、色仕掛けする女の子がいるんですよ。……信じられなかった……あんな……はしたない……。」

「まあ、小学生でも女だからな。」

フン!と、東出が鼻で笑った。

「……女……。そうですか……。女の子じゃなくて、女だったんですね……もう……。」

しみじみと、かほりはうなずいた。

「私の存在を知って、諦めてくれる人がほとんどなんですけどね……音楽教室で一緒だった根田さん……今から思えば……、当てつけもあったのかしら……。」

「根田……。」

たいして興味ないだろうに、東出は相づちを打ちながら聞いてくれた。

東出の心がうれしくて、かほりは語り続けた。

「中学に入って、すぐ……雅人のストーカーみたいにずっと尾行してついてきたのは、海老根さん。警察沙汰にするって親御さんと談判したら……雅人が、遊んで、期待させるようなこと言ったのを、信じてらしたせいでした……。」

思い出すと、胃の底のほうがムカムカしてきた。

「……まあ、中学生女子なら……ピロートークも鵜呑みにするだろうな。海老ちゃんか。お気の毒なことだ。」
東出はそう言って、ケルシュを飲み干し、注ぎ足した。

「私にも、ください。吐きそう。……中学時代には、もう1人厄介な人がいらしたわ。伊勢崎さん。私に、別れてくれって訴えてきたのよ……それも、私の学園の門前で。両親共々、学園長に呼び出されて……さんざんだったわ。」