甘い恋じゃなかった。





「店長!どうしたんですか、このお客さんの数!」



ケーキはおいしいけど静かで廃れている(失礼)なところもミルフィーユの良さだったのに…!



いや、でも冷静に考えてみよう。

廃れてはいたけど、店長のケーキは絶品だ。人気パティスリーにも全然引けを取らないおいしさだと思う。



それが誰かに見つけられてしまったとしても不思議ではない。誰かに見つけられて、それが口コミやSNSで爆発的に広まってしまったとしても有り得ないことではない…。




「店長のケーキも、ついに世の人気者になっちゃったんですね…」



一抹の寂しさを覚えながらそう言うと、



「まさか!ナイナイ、そんなこと!」



笑い飛ばされた。



「え、違うんですか?じゃぁどうして急に、こんな…」



「実はね、僕、ついにバイトを雇ったんだよね」



「そうなんですか!?」




店長がバイトを雇うなんて、私が知る限り初めてのことだ。




「まぁそうですよね、この客数を一人で捌くのはさすがに…」



「いや、違うんだなこれが」




チ、チと人差し指を振る店長。




「逆だよ」



「逆?」




忙しくなったからバイトを雇った、の逆ってことは…




「そのバイトを雇ったから、忙しくなったってことですか?」




混乱してきた私に横からフォローをいれてくれる牛奥。



「ご名答!☆」



店長がグ、と牛奥に親指を突き立ててから、今度は私に向かって「ていうか誰!?このイケメン。まさか明里ちゃん…二股!?」とヒソヒソしてくる。




「は!?二股って小鳥遊、彼氏いたのか!?」




そんな店長のヒソヒソ声を地獄耳で聞き取った牛奥が、私に詰め寄ってくる。



「いや、いないから。ていうか店長、それってどういう…「キャーーーーッ!!!!」



不意に響きわたった甲高い歓声に、危うく鼓膜が破れるかと思った。



なんだなんだと振り向いてみると、大勢の女子がこちらに背を向けて立っている一人の男を取り囲んでいる。



黒いワイシャツにエプロン姿の男性。その男性にキラキラした熱っぽい視線を浴びせている女子たち。




「今日もかっこいいですね~!」


「わたし、キララ王子のケーキ食べたいっ!」


「はいはい!わたしはキララ王子の淹れてくれた紅茶が飲みたい~!」




す、すごい人気だ。ていうかキララ王子って。どこの少女漫画だよ!?