甘い恋じゃなかった。






「き、桐原さん?」



ミルフィーユを見つめたまま、微動だにしない桐原さん。いや、よく見ると全身が小刻みにワナワナ震えている。



「あ、あのどうし…うわっ!?」



と思ったら、次の瞬間にはフォークを握り直し猛烈な勢いでミルフィーユを食べ始めた。




な、なに!?この鬼気迫る勢いは!?




あっという間にミルフィーユを平らげた桐原さんはダージリンを一気飲みすると、ガタッ!と席を立った。



「…このケーキ、あんたが作ったのか?」



そして重々しい口調で、カウンターでたこ焼き作りに勤しんでいる店長に問う。




「そうだよ?この店、僕しか従業員いないしね」



たこ焼きをひっくり返しながら明るく答えた店長に、桐原さんはまるで、犬が人間の言葉を突然喋り始めたのを聞いたような、空から飴が降ってきたのを目撃した時のような、そんな表情をすると身を翻しあっという間に店を出て、走り去っていった。




「桐原さん…!?」




な、何事…!?




取り残された私と、たこ焼きをひっくり返している店長と。



もしかして桐原さん




「食中毒…!?」



「ちょっと!?やめてよ物騒な!!」




店長の持っていた竹串からボトリと、たこ焼きが落ちた。