甘い恋じゃなかった。





♦桐原side




ふ、と外に目をやるとアイツの姿がなかった。


さっきまではいたはずなのに。…トイレか?


「どうしたのキララくん?」


急に手を止めた俺に師匠が気付き、不思議そうな顔をする。


「あー…すいません」


ま、トイレだろ。


再び作業を再開しようとしたその時、厨房のドアが開いて栞里が駆け込んできた。…注文を伝えにきたわけではなさそうだ。心なしか顔が青い。


「どうした?」

「じ…実は、今お客さんの話が聞こえて…サンタの格好をした女が、何人かのギャルに引っ張られていったって」



…は?



「外を見たら明里の姿がないし、もしかしたらって…」



ガコン、


俺の手からボウルが落ちる。ドクン、と心臓が嫌な音をたてた。



…一部に、俺を異様に好いてくれてる女たちがいることは知ってた。店の前で何度か待ち伏せされたこともあったし。

ちょっと危なそうだったから、アイツのことは伏せていたのに…何で。


「…きぃくん?」


栞里が俺の顔を覗き込む。


「私、ちょっと探して…「俺が行く」


栞里を遮って、師匠に頭を下げた。


「すいません。ちょっと抜けます」

「あ、でもこれ全部生クリーム…」

「あとお願いします!!」



それだけ言って店を出る。



…どこだよ。どこにいる。


やみくもに走った。こんなに全力疾走したのはいつぶりなんだろう。



…ったくアイツ…こないだから俺はアイツの一挙一動に振り回されて、アイツのこと考えてばっかりだ。


お前に今度こそよく言っておきたいことがある、だから…絶対に無事でいろ、明里!