「何だ違うのか。つまんないのー」



一気に興味を失くした莉央がハンドクリームを再び手に塗り込み始める。ローズのいい匂いが私の方まで香ってきた。



「じゃぁ同居って一体誰とよ」



「え?それは…」




…なんて言えばいいんだろう。
お姉ちゃんが婚約破棄した元婚約者だよ☆なんて突然言うのもなぁ…。



「…こ、後輩?大学時代の!こないだ急に家押しかけてきてさ、なんか仕事クビになって住んでたマンションも追い出されたらしく泣きついてきてさ!本当、参っちゃうよねー!」



嘘をつく時人は饒舌になる。だけど莉央は特に気にもしていないようで、へぇー、と間延びした相づちを打っただけだった。




さぁそろそろ業務に戻ろうかとパソコンに向き直りかけたところで




「それ、男?」




投げかけられた莉央の質問。





「…う、うん…まぁ一応」



「…へぇ!」





再び爛々と輝き始める莉央の瞳。




「会わせて!」




やっぱりそうきたか…。




「いや、あの、会わせるほどの人物ではないっていうか!カバみたいな顔してるし!」


「は?カバ?」


「そ、そう!だからジャニーズ大好きな莉央が会うほどのお相手でもないっていうか!その上性格も最悪で!」



「ふーん?」



「そうなのっだからっ…ちょっとお手洗い行ってきます!」




私はこれ以上余計なことを聞かれないうちにと逃げるように席を立った。



カバ男にしてごめんなさい、桐原さん。




私は心の中でそっと桐原さんに詫びる。




でも、もしも莉央と桐原さんを会わせたりなんかしたら、桐原さん、絶対莉央に何か余計な暴言とか吐きそうだし。



とりあえずこんな同居、きっとすぐに終わる。

桐原さんが嫌になって逃げ出すに決まってる。



だから、その少しの間、この奇妙な同居生活は…できるだけ内密にしておこう。