甘い恋じゃなかった。





「まだ何も。なんかすごい度胆抜くようなケーキ作りたいんだけどな」


私からノートを受け取った桐原さんが、右手に持ったペンをクルクルと回す。



「別に度胆抜く必要なんてないですよ」


「普通のケーキじゃつまんねぇだろ?」


「桐原さんが食べたい、って思うケーキを作ればいいんですよ。桐原さんがワクワクできるようなケーキを」


「はぁ?ワクワク?」



何言ってんだこいつ、とでも言いたげに顔を歪める桐原さん。



「作る人がワクワクできるケーキなら、食べる人もきっとワクワクできるはずです」


「…またお前はよく分かんねぇことを…」



暫く考え込むようにじ、とノートを見つめていた桐原さんが、は、と息を吐いてそれを閉じた。



「まぁいいや。今日はもう終いだ。お前、ちょっとここで待ってろ、送る」


「え?でも桐原さん、これから仕込みとかあるんじゃ」


「今日は昼間暇だったからもう終わってる。師匠も帰ったしな」



着替えてくるわ、と店の奥に消える桐原さん。


…ふーん。送ってくれるんだ。



ポカポカと心が温かくなるのを感じて、ふと壁にかけられた鏡を見ると、頬を蕩けそうなほど緩めさせた私がいた。