甘い恋じゃなかった。




一歩その人が前に出て、ちょうど近くにあった街灯に照らされ顔がはっきりと見えた。



…間違い、なかった。



綺麗な唇が弧を描く。
最後に見たときより、大分短いボブヘアーになっていた。


それ以外は何も変わらない。
信じられないくらい、あの時のままだ。



あまりのことに声も出ない私に、お姉ちゃんは笑いかける。



「よかった、会えないかもって思ってたんだ。あのね、明里…」



その時、お姉ちゃんの目が私の隣をチラと見た。瞬間大きく見開かれる。


唇が僅かに開いて、震えていた。



「…きぃくん?」



そ、と私も隣を見上げる。

桐原さんの目も同じように大きく見開かれていた。



「…栞里」


「え、あ…」



ビク、と肩を震わしたお姉ちゃんが一歩、また一歩と後ずさる。そして、



勢いよく踵を返すと、カッカッ!とヒールを鳴らし物凄い速さで走り出した。



私と桐原さんは、どんどん遠ざかっていくお姉ちゃんの背中をただその場に突っ立って眺める。


…速い。ヒールなのに、異様に速い。



「あの、今の、お姉ちゃん…でしたよね…?」

「…あぁ」

「………」

「………」





「…追いかけなくていいんですか」



お姉ちゃんの背中が見えなくなりそうなほど遠くにいったとき、自然とそんな言葉がこぼれ出ていた。



「…追いかけて欲しいのかよ」


「…それは…」


「追いかけない。もう俺には関係ない女だ」




その言葉にホッとしているのか、追いかけて欲しいのか、自分で自分の感情がよく分からなかった。

一つ分かるのは、今私は、人生で一番くらいに混乱しているということだ。



「いや、でも…」


「追いかけたかったら自分が追いかけろ」



そう言って、桐原さんがお姉ちゃんに背を向けるようにして歩き出す。




「…わかりました」



あー、桐原さんち、行きたかったのに。



「また近々誘って下さいね!絶対!!」