「いやいや、いいんだよ!」



店長がブンブンと、勢いよく顔の前で手を振った。



「むしろお礼を言いたいのはこっちだよ。キララくんのケーキ、なんていうかこう、甘くなったしね」


「甘い?」


「そ。やっぱり恋っていうのはいいよねぇ」



パチ、と店長が青メガネの奥からウインクをかましたとき、ちょうど洗い物を終えたらしい桐原さんが厨房から出てきた。



「師匠…またコイツに余計なこと言ってませんよね?」



そして鋭い視線を店長に向ける。




「言ってないよ!キララくんが、明里ちゃん来ない間イライラしてて大変だったっていうのは言ったけど」

「言ってるじゃないですか!!」

「え?これのどこが余計なこと?」

「…ったく、もう…」



頭をガシガシとかいた桐原さんが、むに、と私の頰をつまんだ。



「お前もニヤニヤしてんじゃねぇよ」


「ちょ、いひゃいんですけど」


「ぷ、面白い顔…」


「ほひる(伸びる)んですけど!」




くそう、人の顔をグニグニ伸ばして楽しそうに笑う姿でさえイケメンに見えてしまうなんて、今の私は結構やられている。



「くぅ〜、甘いねぇ〜」



店長がそんな私たちを見て。しみじみとそう呟いた。