甘い恋じゃなかった。







パチ。



電気を消して布団に寝転ぶ。


暗闇の中にボンヤリと浮かぶ天井を眺めながら、あぁ、ここ桐原さんの部屋なんだなと思った。


つい数ヶ月前まで、ここは私の寝起きする部屋だった。

でも今は、微かに香る匂いとか、家具の置き方とか、部屋全体の気配がなんていうか、完全に他人のそれで。わたし今桐原さんの部屋にいるんだなぁ。そう思うとなぜかソワソワして、落ち着かない。



部屋に入ったとき、一番はじめに確認してしまったのは、あの写真立てだった。

一度桐原さんの布団を干すために立ち入ったこの部屋で、誤って倒してしまった写真立て。桐原さんとお姉ちゃんの、ツーショット写真。



それが無いことに、ホッとした。どこかにしまったのだろうか。

いや、ていうか何でこんなにホッとしたのか、自分でもよく分からない。





寝返りを打つ。




眠る間際の思考は、どんどん余計な方向へと飛んで行く。





…桐原さん、何であんなことしたんだろう。



つかまれた手首の感触と、背中にまわされた腕の感触を思い出すと、また顔が熱くなるのを感じる。


どうせ、いつものように経験が乏しい私をからかっただけだろう。


分かってる。

でも桐原さん、笑わなかった。

いつもは笑うのに。今日はまるで何事もなかったかのように、目すら合わせなかった。




なんだか悔しいくらいドキドキしてる。
彼はきっともう、あんなこと忘れてるのに。





…考えれば考えるほど思考が冴えていく。



長い夜がやってきそうだ。