甘い恋じゃなかった。






「違います!そんなんじゃ…って牛奥!?」



慌てて弁明しようとしたところで、再びえずき始めた牛奥に背筋が凍る。



「ちょっ!桐原さん!牛奥運ぶの手伝ってください!はやく!」


「はぁ?仕方ねーなー…」




コンビニ袋を靴箱の上に置いた桐原さんが、怠そうに牛奥の隣にしゃがむ。




その時だった。




「う゛っ…!」




盛大なゲロが、桐原さんに向かってぶちまけられたのは…。











「申し訳ございませんでした」



数十分後。

牛奥を一先ずソファに寝かし、ゲロの片付けを終えた私は、風呂から出てきた桐原さんに深々と頭を下げた。



ゲロを吐いたのは私ではないが、私が連れ込んだ酔っ払いのせいで全く関係のない桐原さんがゲロまみれになってしまった。責任は感じている。



「別にいいけど」



と言う桐原さんの顔は全然よくなさそうだ。牛奥を横目で睨みつけた桐原さんの拳がポキ、と鳴った。


…牛奥ごめん。もしかしたらあんたの命日、明日かも。どんまい。




「ったく、いくら彼氏でも連れ込むときは事前に連絡くらいしろよ」



そう言って、ラグの上に胡座をかく桐原さん。



「すみません、何せ突然のことだったもので…って、は?彼氏?」



「だろ?」



「いや違いますよ!」




ちげーの?と桐原さんが意外そうに私を見る。




「こないだセクシー(笑)な下着も買ってたことだし、てっきりそうなのかと」



「ちょっと。セクシーのとこで吹き出しそうになるのやめてください。
牛奥はただの同期ですから」




ふーん、と桐原さんが缶ビールのプルタブを開ける。プシュ、と耳に心地よい音がする。




「あっそ。相変わらずそんなことやってんのか、お前ら」


「そんなことって…」


「仲良し同期ごっこ」



カチン、ときた。


ごっこって何だ。






うーん、と牛奥が唸った。



まさかまた吐かないよね…?



懸念を込めた視線で牛奥を見つめるが、彼はすぐにまた健やかな寝息をたてて眠ってしまった。


よかった。



ホ、として牛奥から視線を外すと、なぜか私をじ、と見ていた桐原さんと目が合った。




「何ですか?」



「……別に?」