甘い恋じゃなかった。






「私は桐原さんのケーキが好きです」


「そんなこと聞いてな…」


「だって食べた瞬間幸せになれるんです、彼のケーキは。
私だけじゃない、きっと桐原さんのケーキを食べた人みんな、幸せな気分にしてくれる。
それのどこがくだらないっていうんですか?」


「黙りなさ…」


「いいえ黙りません。
そりゃ病院がないと困るし、お医者さんはすごい仕事だと思います。

でも愛良ちゃんも桐原さんも、自分の進みたい道を見つけて頑張ってるのに…それにお遊びとかくだらないとか、そんなの絶対ないでしょう!?」




「もういいわ。川村」




彼女が語気を強めてサングラス男を呼ぶ。心得たように、サングラス男が私に近づいてきた。




なんだか悔しい。全く分かってもらえないことが。私の言葉全部、彼女の前にある透明な壁に砕けて、ほんの少しも届いていない。


サングラス男に出口に向かって引っ張られながらも、私は彼女に向かって叫び続ける。




「あなた桐原さんのケーキちゃんと食べたことあるんですか!?
もうメッチャクチャおいしいんですよ!?
何であんなに横暴でワガママで俺様な人があんなにおいしいケーキ作れるのか謎ですけど、とにかく一回ちゃんと食べてっ…」



「横暴でワガママで俺様で悪かったな」




シン、と空気が止まった。



ガバッと音が聞こえるくらいの勢いで振り向くと、コックコート姿の桐原さんが気怠そうにドアにもたれて立っていた。



少しだけ息が乱れている。



「桐原さん…!」


「何でお前がそんなにエキサイトしてんだよ」



桐原さんがハ、と呆れたように口角を歪めた。