甘い恋じゃなかった。





ということは、その黒スーツにサングラスの男を従えた女の人は、誘拐犯のボスなのだろうか。確かに、凛とした美しさを持つ女性だけど、それが怖くも感じる。



「ち、ちょっと!私たちをこんな所に連れてきてどうするつもり!?…つ、つもりですか?」



得体の知れない薬で眠らされた怒りもあり、思い切って声をあげたが、女性の切れ長の瞳に囚われた瞬間、思わず敬語になってしまった。やっぱりこの人、こわい。



女の人は少しの間私を無言で眺めると、私から視線を逸らさぬまま後ろのサングラス男に聞いた。



「この方はどなたかしら?」


「は。お嬢様をお連れしようとしたところ、妨害されましたので、やむなく」


「アポのないゲストは嫌いよ」


「申し訳ございません」


「…まぁいいわ」



それきり女性は私に1ミリの興味もなくなったようだ。

私からフッと視線を外すと、ツカツカとヒールを鳴らして愛良ちゃんに歩み寄る。



「愛良。連絡もなしに何日も家を空けてどういうつもりなの」


「…ごめんなさい」


「部活の顧問の先生からも連絡があったわよ。ここのところ、休んでいるんですってね」


「………」




そこで私はようやく察した。


ここは誘拐犯のアジトでもなければ、この美しくも怖い女性は誘拐犯のボスでもない。



この人、愛良ちゃんのお母さんだ。