「なんだアイツ?」
桐原さんが顔をしかめて首をひねる。
「追いかけないと!」
なぜか店長が血相を変えて追いかけようとする。
「いや、店長はいいですから。私追いかけます」
店長に千円札を二枚押し付けると慌てて後を追った。
「愛良ちゃん!」
なんとか愛良ちゃんに追いついて声をあげると、愛良ちゃんは足を止めて、キッと私を睨みつけた。
「…ズルい」
「え?」
「お兄のケーキは、ずっと私のものだったのに…」
「愛良ちゃ…」
バタン、とすぐ近くで車のドアが閉まる音がした。
続いて、コツコツという足音がこちらに向かって真っすぐにやってくる。
何だろうと怪訝に思って振り向くと、黒いスーツに黒いサングラスをかけた、屈強な男が三人、私たちを見下ろしていた。サングラスのせいで、その表情は全く読み取れない。
…明らかに怪しい。
「ちょっと何…」
男たちは私などまるで眼中にないらしかった。スッと私の前を通過すると、愛良ちゃんを取り囲む。
「行きましょう」
男の一人が無機質な声でそう言って、愛良ちゃんの腕を取った。
何これ、女子高生狙いの誘拐!?監禁!?身代金!?
そんな単語が瞬時に頭の中を駆け巡り、私は咄嗟にその男の腕に噛みついた。
思い切り歯を立ててやったというのに、思いのほかスーツが分厚く、男はピクリともその表情を動かすことなく私をサングラス越しに見下ろすだけ。
「…おい」
そして何やら隣の男に指示を送ると、後ろから口をハンカチのようなもので塞がれ、あ、やばいと思ったときにはグラリと視界が歪んでいた。
「ちょっと…!」
愛良ちゃんの焦った声が、意識を失う直前に遠くから聞こえた。



