甘い恋じゃなかった。






通されたカウンターに隣同士で座る私たちの前で、店長がデレデレと鼻の下を伸ばしている。その視線は当然ながら愛良ちゃんに熱く注がれている。


「いや~、さすが王子の妹さん。お姫様とお呼びしてよろしいですか?」


「何このオッサン、マジキモい」



愛良ちゃんが私の心の声と全く同じことを言った。桐原さんが険しい顔でそれをたしなめる。



「おい愛良、師匠にその口の利き方はよせ」


「だって」


「思っていても心の中だけにしとけ」




どうやら桐原さんも思っていることは私たちと一緒のようだ。



「つーか」



そこでギロリと桐原さんの視線が私に突き刺さった。私はお冷を飲むフリをしてその視線に気づかないフリをする。



「お前」


「………」


「そこの水飲んで気付かないフリしているお前」




どうやら完全にバレていた。




「な…何でしょう」


「わざわざ愛良連れてこんな所まで来やがって。どういうつもり?」


「どういうつもりって…ケーキ食べにきたに決まってるじゃないですか」




私の言葉に愛良ちゃんが勢いよく顔をあげた。




「お兄、ケーキ作ってるの!?」



「…いや、作ってねぇよ。
俺はまだ修行中の身だし。店に出すケーキなんて作れるわけねぇだろ」




ここでの桐原さんは、家での態度とはまるで別人のように、謙虚である。