近くで見てはじめて気が付いたが、愛良さんの手には所々に青黒い痣があった。


そして手の平も、その華奢な見た目とは裏腹にゴツゴツとしていて、固い。このゴツゴツしたものは…マメ?



「でも意外ですね、愛良さん器用そうなのに」


沈黙を紛らわすためそう話しかけると、フン、と息をひそめるようにして私の手元を窺っていた愛良さんが鼻を鳴らした。


「慣れればすぐ出来るようになるよ、このくらい。ただ今まで部活ばっかりで一度もしたことなかったから」


「あぁ、バレーボールやってるんでしたっけ」


「…もうやってないけど」



しかも、インターハイでも入賞しちゃうような強豪校で。



そこまで思い出して、そういえば、と思った。



今は五月だ。私はインターハイ出場なんてそんな凄い経験はないけれど、普通、そういうのは夏に行われるものじゃないのだろうか。しかも愛良さんは高校三年生。これが引退試合なんてこともあるかもしれない。




「部活…いいんですか」



マニキュアを塗りながらなるべく何でもないことのようにそう問うと「だから」と苛ついた声が降ってきた。



「やめたって言ってるでしょ」



頭の中に、カバンの中にしまわれたままの退部届が過る。




…本当は…やめてないんじゃないだろうか、やめたくないんじゃ、ないだろうか。



部活の話を出した瞬間明らかに苛立っている愛良さんを見て何となくそう思った。