「あの日から俺がどんな気持ちで今日まで生きてきたと思ってる?
俺はアイツのせいで何もかも、失った」
ギリ、と私の手首をつかむ手に力がこもる。彼の爪が食い込んでいる。でも、彼の方が何倍も痛そうな顔をしていた。
「俺は…」
ふ、と彼の顔が一瞬大きく歪んだ。
と思ったら。
「きゃっ…!?」
ドサ、と。
彼が倒れ込んでくる。そしてそのまま動かなくなった。
えっちょっなっ、何事!?
はじめて感じる男性の重みと、体温と、そして首筋に熱い吐息がかかったとき。私の理性は崩壊した。
だってだってだって。まさかこんなところでこんな風に奪われるなんて。だって私は
「処女なんですけどっ…!!」
シーン。
恐ろしいほど静まり返った1LDKに、私のカミングアウトだけが虚しく木霊した。
桐原さんは、私の上に倒れ込んだまま何の反応も示さない。
「…き、桐原さん…?」
なんだかただ事ではない気配を察知した私は、彼の下から脱出を試みた。だけど細身に見えた桐原さんの体は
意外にガッシリしていて、重い。
「おっ…りゃぁ〜!」
なんとか彼の肩を思い切り押して私の上から退かすことに成功した。
ゴロリと横に転がった彼の呼吸が荒いのは、多分気のせいではないだろう。
「…し、失礼します…」
恐る恐る、長い前髪の下に隠された額に手を伸ばすと、
「熱っ!」
恐ろしく熱かった。



