清から琶子にLINEがきたのは、それから二週間も過ぎてからだ。
その間、眠りの森の住人たちと仮想空間でも友達になり、琶子はLINEのやり方を覚えた。

『何故、連絡してこない!』

清の第一報はそれだった。
何故って何? 連絡って何を? 琶子は文字を見ながら思った。

『俺は忙しい!』
『寂しくて会いたくても、俺はここにはいない!』

寂しいって誰が? 会いたいって誰に?

『屋敷には絶対に来るな!』
『祖父の誘いに乗るな!』

文字から滲み出す怒りに、琶子は困惑し、返事を躊躇い、結局、放置した。

更に、市之助からも、朝な夕なに電話があり「遊びにおいで」と誘われていたが、原稿の締め切りが迫っていたので、丁重にお断りする毎日が続いていた。

薫曰く、市之助の行動は一つ間違えばストカー行為、だそうだ。
だが、それほど危機感迫るものはなく、琶子はこれも放置した。

返事せずの状態で一日置いたら、清からまたメッセージが送られてきた。

『無視するとはいい度胸だな!』
『今度会ったら覚えていろ!』

脅迫紛いの言葉に、琶子はヒッと顔を引き攣らせ、すぐさま返事をする。

『お仕事お疲れ様です』
『次回、お会いできるのを楽しみしています』
『お体に気を付けて、お仕事頑張って下さい』

少しの社交辞令と、おまけだ、と桃花に教えてもらった、ピコピコ小躍りするウサギのスタンプも貼り付けた。

直ぐに速読となり、『分かった』と一言返ってきた。
それ以降は何も言ってこなかったので、清の怒りは解かれた、と理解した。

しかし、と琶子はスマホを見る。
榊原祖父・孫……あの二人、物凄く面倒臭い人種だ、と携帯に向かって溜息を一つ零す。