市之助は嬉々とスマホを手にすると、ホラホラと琶子に催促する。

「……エット、私、電話しかかけられなくて……」

今回初めてスマホを手にしたことを聞いた清は、ヤレヤレと琶子からそれを取り上げ、パパッと操作し、市之助の連絡先と自分の連絡先を入れる。

琶子は手に戻ったスマホを見「あれ?」と思う。
何気に清の連絡先がHOME画面に貼ってあった。

「ここをタップすると、連絡先や履歴を探さなくても俺にかかるから」と琶子にコッソリ耳打ちする。

地獄耳の市之助はそれを聞き、私のも画面に貼れ、と清に詰め寄ったが、清は知らん顔をし、時計を見る。

「琶子、今日はここまでだ」

そして、背中で市之助が叫んでいるにもかかわらず、それを無視して、琶子を来た時同様ベンツに乗せた。

「お前がスマホに慣れるよう、LINE設定もした、ちゃんと返してこいよ! すぐに会える。寂しがるな」

清は腰を屈めると、後部席の琶子の方に身を乗り出した。

「今回、約束を守って、ここに来た褒美だ。有り難く受け取れ」

そして、その頬にチュッとキスをする。
エッ! と琶子が意識を飛ばしている間にドアは閉まり、車は帰路につく。

何だ、何だ! 今のチューが褒美? 寂しい……誰が? LINEって何それ?
榊原さんって! 榊原さんって、本当、変人だ!

琶子は頬を抑えたまま、でも……と思う。

今回の外出で納得する答えは得られなかったが、市之助さんと出会えたし、図書室も素敵だったし、まずまず平和で楽しいひと時だったな……と。