なのに……それを知っているのに……。
葛藤する相反する気持ちが、琶子を苦しめる。

見捨てられた『哀しみ』と独りぼっちの『寂しさ』が、救いを求め、人を信じたい、と叫ぶのだ。

グチャグチャと混濁する心に風子の言葉が蘇る。

「醜い気持ちは誰にでもあるものよ。琶子、貴方は優し過ぎる。それ故、醜い気持ちも、また真だと認めることができないの」

彼女の言い分はこうだ。『警戒心』『猜疑心』『不信感』を持つことは悪いことではない。逆もまた真なり。持つことにより、慎重さが増し、騙される確率が減る。それも大切なことだ……と。

当時、風子の言葉で少し救われた、と琶子は思った。
だからその手を信じ、縋りたい、と思った。
だが……それも瞬時に消え去ってしまった。まるでシャボン玉が弾け消えるように。

琶子は悟った。

もしかしたら、自分は疫病神ではないだろうか……と。
自分が、その負の連鎖の始まりではないだろうか……と。

それなら、もう、求めない! 信じない! これ以上犠牲者を出さぬよう、眠りの森に篭ろう……と。

幸いなことに、ここに身を寄せる者たちは、皆、自分より遥かに悪運強く、逞しい、と琶子は思った。その証拠に、被害を受けることなく、元気に生き延びている。その筆頭が金成だ。

なのに、事もあろうに、風子とナナの家族である榊原清と、何の因果で付き合わなくてはいけないのか。

もし、彼に災いが降り掛かったら……そう! これが根底にある、今ある恐怖だ。