眠りの森のシンデレラ


「この場所には、希少で貴重なワインが並ぶ棚があります。もし割ったりしたら金ちゃんに瞬殺されます。これ、冗談じゃないですから!」

清は琶子の真剣な言葉をサラリと流し、その手をやんわり除ける。

「大丈夫だ。父のコレクションだ。俺が割ったところで誰も文句は言えまい」
「……アア、なるほど!」

琶子は瞳を大きく見開き、納得! とばかりに何度も頷く。

「お父様の……だからなんだ。とっても大事なものばかりだって、この辺りの陳列棚には絶対近付くなって、私にはその価値が全く分かりませんが……」

テヘッと舌を出し、「でもですね!」と琶子は訴える。

「金ちゃんは、近付いたら私が瓶を割ると決めつけているんです。全く! 失礼だと思いませんか?」

琶子の頬がプッと膨らむ。
コロコロ変わる彼女の表情を清は楽し気に見つめる。

「彼の言い分が正しいかは、これから君と付き合いつつ判断する」
「はい? ハァ? はい……?」

付き合う? 何を? からかっている? 清の何処かしらガキ大将っぽい調子に、琶子は更に頬を膨らませる。

「お前、茹で卵のようだな」

ピンと張った艶やかな白い肌に誘われ、清は手を伸ばすと、人差し指で膨れた頬を押す。途端に琶子の口からブッと変な音がし、息が漏れる。

「なっ、何するんですか!」

琶子は慌てて口を押える。

「ちょっと突いてみたかった、気に障ったか」
「ハーッ? 突きたかった……!」

子供か! と付け加えたかったが、理性を総動員させ、辛うじて心に止める。

多分、この人、天然だ。そして、大人だけど子供だ。
琶子は面倒臭い人と知り合いになったものだと、盛大な溜息を吐く。

金成にその言葉を聞かれていたら、「お前も同類だ!」と突っ込まれていただろう。