眠りの森のシンデレラ


そんな清の耳に小さな呟きが聞こえた。

「ここは物語の原点……私が生まれ変わった場所」

琶子を見下ろす清の瞳に、逆光を浴び深い陰影を作る琶子の顔が映る。
さっきより少し大人びた彼女の表情に、清はドキッする。

綺麗だ……。
彼女は、まだうら若きワインだ。
だがすぐに熟成され、芳醇で刺激的なワインとなるだろう。

まだ、他人事のような感情だが、清は気付いた。
昔感じたあの甘酸っぱい胸の疼きを……。

あの直感は正しかったらしい。
俺はどうやら、この娘のことを好ましく思い始めているようだ。
どうする? このまま進むか? 止めるか?

榊原という家名を背負う清は、何時如何なる時も、こうやって自分を冷静に見つめ、感情をコントロールしてきた。

止めれば、何れ彼女は他人のものになる。
それでもいいのか? 清は自分の心に問う。

何を見つめているのだろう、と琶子は首を傾げ、清の顔を覗き込む。
清の熱い眼差しが琶子を見つめ返す。

「ああ、そうか! 分かります! この空間、見惚れますよね、素敵ですよね、どうぞ中へ」

ニッコリ微笑み、琶子は清を中へ誘う。

なるほど、本当に恋愛経験が無いようだ。
的外れな琶子の言葉に、清は笑いを噛み締め、懐かしい部屋へ足を踏み入れる。

ならば、俺がこの娘に全てを教えよう!
清は無性に楽しくなってきた。

他人のものにしてなるものか! この娘が欲しい!
清の心は決まった。

「えっと、ここにあるワインは金ちゃんが管理し補充しています。収集し出すと切りが無いようで、泣く泣く上限三百本としているそうです」

ワインラックのワインは地域別年代別に分けられていた。

「アッ、この先は行っちゃダメです!」

入り口から奥に進み、凹んだ場所まで来ると、琶子が両手を広げ通せんぼをする。