「あっ、そうだ。クローバーも来るんだった! 材料足りるかしら?」

琶子の胸がドグンと嫌な音を立てる。

「薫ちゃん、もしかして、この間来たイケメンの富豪さん?」

好奇心いっぱいの瞳で桃花は薫を見る。

「そうよ」と薫が頷くと、琶子は清の射貫くような眼差しを思い出し、ブルッと震える。

「キャッ、この前、会えなかったから嬉し~い!」

桃花が椅子の上で小躍りする。

「コラコラ、危ない」と慌てて止めながら、早速の再会か……と琶子は溜息を一つ付く。

「あっ、そうだ、桔梗は? 人数確認しなきゃ」

薫は手を洗い、アルコール消毒液を揉み込みながら「連絡あった?」と琶子に聞く。

「昨日からホテルに泊まり込みです。作家さんが拘りの人らしく、イラスト案がまとまらないって、ディナーまでには戻りたいけど、戻れないかも……とのことです」

薫は琶子から卵とミルクを受け取ると、ボールに卵を割り入れ、ミルクを注ぐ。

「フ~ン、大変ねぇ。基本全員参加だけど、まっ、いいわ。途中参加ということで、桔梗も人数に入れてっと、今夜は六プラス三で九人ね。琶子、蜂蜜とバニラエッセンスを取って」

材料を混ぜ合わし、液をコシ器でコシて滑らかにしてから、少し日の経ったフランスパンをジックリ浸し、焼く。

バターの焼ける芳ばしい匂いと、甘いバニラの香りがフライパンから立ち昇り、キッチンに広がる。

「薫ちゃん、お腹がグーッって鳴った。早く! 早く!」
「はいはい、せっかちなお姫様、もうちょっと待って」

きつね色に焦げ目の付いたフレンチトーストを、薫は次々皿に乗せていく。

「メープルシロップ、ジャム、生クリームはここに置くわ。お好きにどうぞ。琶子も温かいうちに召し上がれ。飲み物は何にする?」

「桃花、アイスミルク」
「私はロイヤルミルクティーをホットで、アッ、ポットにもお願いします」
「俺は熱いコーヒーだ」

突然、ドスの効いた声が聞こえ、三人は声の方に視線を向ける。