清の頭にクエッションマークが浮かぶ。
女性? 宝塚歌劇で言えば男役、それもトップスターを飾れる美貌とスタイルを兼ね備えた人物……だが。

「貴方が榊原氏ね。聞きしに勝るイイ男だこと。私、桜井薫。ごきげんよう」

セクシーな色気を漂わせ、薫が右手を差し出す。
百八十八センチの清と七センチヒールを履く薫の目線は同じぐらいだ。

なるほど……と清は先程の疑問を早々に解決する。
耳障りの良いハスキーな男声。清は右手に持った紙袋を左手に持ち変える。

「ん? その袋……」

ハハーンと全て分かったように、薫が口を開きかける。
コイツ、侮れない! 清はシッと人差し指を自分の口元に当て、それを制す。

妖の笑みを浮かべ、薫は清の耳元に唇を近付け囁く。

「美味しい時間を過ごせたかしら?」

清は表情を崩さず、一歩後退し、差し出された右手を軽く握る。
薫はその手を強く握り返し、清に一歩近付く。

「間違っても、あの子にオイタは駄目よ! ただじゃおかないからねっ!」

薫は敵を見るような鋭い視線を向け、軽くウインクすると、何事もなかったように手を放し椅子に腰を下ろす。