『……お兄ちゃま』
嬉しそうにブランコを漕ぐナナの声。天使のような笑顔。
『お兄ちゃま、大好き』
美しく成長する血の繋がりのない妹。
いつの頃からだったのだろう。
いけない、と思いながらも、彼女を女として深く愛してしまったのは……。
榊原の名を背負う以上、『妹を愛した』などというスキャンダルはご法度だ。
叶わない想いと葛藤する毎日は地獄のようだった。
そして、その想いをナナに知られるのが一番恐かった。
想いを悟られる前に……断ち切るために……ナナから逃げた。
それが、長く留学していた本当の理由だ。
最後に会ったあの日、ナナは破顔一笑し「好きな人ができた」と告げた。
嫉妬に駆られ、言ってはいけない残酷な言葉を吐いた。
そのまま二度と会えなくなるとも知らず……。
その言葉を取り消すこともできぬまま……。
今もナナを愛する気持ちに偽りは無い。
だが、今はそれが、恋愛感情なのか、家族愛なのか分からなくなっていた。
それだけ時間が経ったということだが、それ以上に懺悔の気持ちが勝っていた。
『お兄ちゃま、もう自分を責めないで』
柔らかな笑みが囁く。
『琶子が呪縛を解いてくれるわ……幸せになってね』
琶子? 幸せ? 彼女が何をするというのだ!
『大好きよ、今もこれからも……ズット』
大好き? それは清の求めた愛ではない。
だから清は封印した。二度と人を愛することはない! とその想いを……。
ブランコが揺れる度、ナナの面差しが琶子に変わっていく。
フッと笑を零し、琶子が清の前髪を優しく掻き上げる。
夢……? 現実……?
清は思わず手を伸ばし、その手を掴む。
「キャッ」と聞こえる声と柔らく温かな感触。
現実?
ボンヤリする頭で、清は口を開く。
「何をしている?」
「あっ……風が髪を……鬱陶しそうで……起こしてしまいましたか……」
清の隣に座る琶子は、驚いたような、困ったような表情で、握られた右手を見つめる。


